趣味の釣りで釣った魚をどうやって美味しく食べるかは日頃から気にしていましたが、さばき方教室を始めるにあたり魚の鮮度と味の関係を本気で考えるようになりました。
釣りたての魚が鮮度一番なのはもちろんなのですが、真冬のある日、ヒラメが釣れたのでその夜に刺身にして食べたところ、これがびっくりするほど美味しくない・・・
良く言えば歯ごたえが非常によく、さっぱりした味で新鮮さを感じることができるんですが、ぶっちゃけ肉質はゴリゴリ感が強く、蛋白すぎて味がほぼ無いという感じでした。
しかし残りの半身を3日ほど冷蔵庫に放って置いてから刺身で食べたらメチャクチャ美味くなってて驚きました。
調べてみると、魚の美味しさは脂とイノシン酸という2つの要素が強く関わっているということがわかりました。
脂のノリは魚の種類や季節によって変わるもので、鮮度とは関係ないため、これはもう旬の魚を食べるしかありません。
特に焼魚やフライのように火を通す料理の場合は、加熱により脂が溶けることで味覚が増すため、脂のノリは非常に大事です。脂の乗っていない焼魚の身はパッサパサで、ある意味超ヘルシー(笑)
一方、イノシン酸は旨味成分のひとつであり、筋肉中のATPという物質が「熟成」という工程によってイノシン酸に変質することで量が増すことが研究で明らかになっています。熟成とは、一定時間さかなを低温下で寝かせることです。
獲れたての魚はイノシン酸が大して含まれていないため、味覚的には最高に美味しいというものではないんですね。
また「熟成」によって肉質が柔らかくなり、ゴリゴリ感もなくなります。
歯ごたえは好みなので一概には言えませんが、捕れたてを生で食べるという醍醐味と、さっきまでぴっちぴちで生きていたのだから新鮮で美味しいに違いないという先入観あっての「幸せな勘違い」ということです。
なお、イノシン酸は加熱調理によって量が減ってしまいます。
ある研究によると遠火や弱火でじっくり加熱するほど、分解酵素の働きで旨味成分が減少し、半分程度になってしまうという研究結果もあります。
温度上昇にともないイノシン酸分解酵素の活性があがり、旨味成分であるイノシン酸が減少してしまいます。
ただし分解酵素も摂氏50度以上になると変質し、イノシン酸の分解が進まなくなるので、旨味を残すためには低温の状態からできるだけ早く摂氏50度以上になるよう急速加熱すればよいということになります。
これらをまとめるとこんな感じ。
生食 | 獲れたて | 熟成後 |
旬以外 | X | ◯ |
旬の魚 | △ | ◎ |
・生食はイノシン酸の量を重要視
加熱 | 獲れたて | 熟成後 |
旬以外 | △ | △ |
旬の魚 | ◎ | ◯ |
・加熱料理は脂の量を重要視
旬を外した魚でも焼けばそれなりにに脂がしみ出してそこそこ食べられるので△。
旬&熟成魚は脂がのって旨味も増しますが、加熱調理すると加熱による旨味成分の減少により熟成効果が薄れてしまうこと、熟成による肉の軟化と加熱による肉の変質とが相まって身がややグズグズになることから○としました。ただこれは好みによるかも。
新鮮な魚を焼いたときの身が弾ける感じとか皮離れの良さが好きなので個人の偏見入ってます。
干物にすれば熟成と同時に余分な水分が抜け、グズグスを防ぐことができるため、一夜干しなら旬&熟成は◎ですね!
次回は魚を熟成させる方法について考えてみたいと思います。
このブログの要約
- 魚は脂とイノシン酸が多いほど美味しい
- 脂の量は魚種や季節で変わる
- 獲れたてぴちぴちの魚にイノシン酸はあまり含まれていない
- 魚を寝かせるとイノシン酸の量が増える
- ゆっくり熱を加えるとイノシン酸は減る
参考文献
・魚肉におけるイノシン酸分解の温度依存性 奈良女子大学 遠藤 金次 1992年
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-04453159/
・伝熱解析に基づく肉調理過程のタンパク質変性および旨味成分変化 日本調理科学会 平成22年度
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajscs/22/0/22_0_107/_article/-char/ja/
・魚肉イノシン酸の調理過程における分解 冨岡和子 1986
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1968/19/4/19_289/_pdf
・過熱水蒸気オーブンレンジ「ヘルシーシェフおいしさメドレー」を発売 日立アプライアンス株式会社 2006年
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2006/06/0608b.pdf